Topic17 蔵宿師と対談方の喧嘩・刃傷沙汰


幕末期、旗本や御家人は経済的に困窮しているのです
新しい経済システムが芽ばえてきているのですが、これに対応できないでもがいているのです
仕組みの変更がなるまで強引なことも起こります、
強引なことが起こるのは仕組みが破綻してきているサインでしょう。


 天保11年6月のこと、江戸は牛込逢坂に御留守番小林権太夫(450石)と言う方が居られました。
手元不如意てもとふにょい、お金がないこと。最近あまり聞かない言葉)になると、長い付き合いの浅草天王町の蔵宿(札差)大口屋源七へいつもの借金です。
この時代、旗本や御家人のお武家さんが借金するのがあたりまえで、浅草御蔵から受け取るお米(蔵米。米問屋で換金、あるいは札差が換金の手間を代行)は、すでに担保に入っているのです。この先数年分の蔵米が担保に入っているのが普通のようです。
借金の返済が滞ってくると、蔵宿側としてはいい顔をしてはいられません。いやみや皮肉などが出て貸し渋りになります、こうなると借りた方も借りにくくなるというのが人情でしょう。


そこで、小林権太夫さんは別な蔵宿に「鞍替」しようと考えました。鞍替しますと、大口屋源七に貯まった借金の返済をどうする、あーするなど面倒な交渉が必要になります。あわよくば借金の踏み倒しに持ち込もうという魂胆も見え隠れしますが、これはチト虫が良すぎます。
返済もままならない本人が鞍替交渉するには負い目があってうまくいくはずがありませんので、誰かに頼むことになります。そこで出番が「蔵宿師」なのです。このような交渉には、まず弁舌が達者でなくては用が足せませんし、はったりも必要、そしてチラチラ刀など見せることも有効でしょうから、浪人が適任です。

小林権太夫さんは、蔵宿師の沼尾孫平に交渉を頼むことにしたのですが、彼は借金の踏み倒しもありそうですから、分が悪いということで断りました。他を当たり高倉要助(50歳位)に依頼して引き受けてもらったのです。


さていよいよ交渉の日です。
小林権太夫の家来と高倉要助、行きがかり上沼尾孫平が連れだって浅草天王町の蔵宿(札差)大口屋源七方を訪問しました。大口屋の方も、対抗して浪人長浜要五郎・荒尾勇八・高野三蔵を
「対談方」として雇っておりましたので、緊張感がある雰囲気です。長浜要五郎(21歳)は元黒鍬、西丸坂下御門番同心の世話になっていた等の下級武士です。

交渉結果の詳細は不明ですが、蔵宿(札差)の貸付金返済が見込め、鞍替できるという結果になったようで、一応の決着がついたのです。


ところが、蔵宿師・対談方共交渉を自分方に有利な方へもっていくのが仕事ですから、雇い主の意向を十二分に達成するよう少しは大袈裟なことにも及ぶことは予想できます。借り方の蔵宿師高倉要助は50歳位、貸し方の対談方長浜要五郎は21歳、亀の甲より年の功でしょうか。借り方の言い分通り鞍替することができたのですから、借り方が押し切った勝利のような雰囲気です。若い対談方長浜要五郎としては、そのままでは引き下がれないことがあったのでしょう。
小林権太夫の家来が帰った後、双方の浪人たちが口論を始め、お決まりの売り言葉に買い言葉、ついに対談方の浪人3人が高倉要助を縛り上げてメッタ斬りで即死です。相棒の沼尾孫平は逃げ出してしまいます。

お裁きは、対談方の浪人たちは入牢、蔵宿師沼尾孫平は手鎖(手錠をかけられ自宅で謹慎)となりました。

蔵宿師や対談方など、強引な手法が増えてくるのは、社会・経済システムが実情に対応できなくなったサインではないでしょうか?


参考資料:江戸巷談「藤岡屋ばなし」続集、ちくま学芸文庫、鈴木棠三
2008.11.17

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