Topic16 フィラデルフィア造幣局で小栗忠順が米国に挑んだのは何?


日米修好通商条約批准のため訪米した遣米使節の幹部小栗忠順は
フィラデルフィア造幣局で貨幣を溶解して金・銀・
銅を定量分析するべきと果敢に主張し実行できたのですが、
何を明らかにしようとしたのでしょうか


当時の日本の最優先課題は「幕末も黄金の国ジパング」だった大量の小判の海外流失で、批准する日米修好通商条約第5条に、その原因が明記されているのです。

日米修好通商条約第5条:外国の諸貨幣は、日本貨幣同種類の同量を以て通用すべし

この「貨幣同種類、同量」という一見常識的な基準により、以下の取引が発生してしまったのです。

外国人が銀貨メキシコ・ドル4個を両替所に持って来ると、日本の銀貨一分銀12個と交換できます。そして、この
12個を小判(金貨)に替えると3個の小判がもらえます。さらにこの小判をドルと交換すると12個のドル金貨がもらえます。
すなわち、銀貨メキシコ・ドル4個が12個のドル金貨に化けるのです(不労収入が3倍になります)。ドル金貨に替えることができるのは日本国外ですから、どんどん小判が海外へ流出していくのです。

日本側として第5条は批准(確認して同意)するには抵抗があるはずです。しかし、遣米使節団は批准したのです。


批准した22日後、遣米使節団はフィラデルフィアの造幣局を訪問し、ここで小栗忠順が、互いの貨幣を溶解して金
・銀・銅を定量分析するべきと主張・論破し分析できたのですが、批准した後ですから、何を言っても後の祭りになりますが、小栗忠順は何を明らかにしたかったのでしょうか。


まず分析の結果を見ると、「1枚の小判は金貨3ドル57セントに相当する」ことが明確になりました。
ここで小判は具体的には安政小判、1ドル金貨はゴールドダラー硬貨(女神リバティを描いたリバティ・ヘッドのデ
ザイン)であろうと類推します。

通貨名
重量
品位(金)
品位(銀)
安政小判(正字小判)額面1両 安政6年5月発行
8.99g
56.77%(5.10g)
43.23%(3.89g)
ゴールドダラー(金貨) 額面1ドル 1.672g
90%(1.5g)
-

金量だけの比較では5.1g/1.5g=3.4 すなわち安政小判1枚(1両)は3ドル40セントになっています。
しかし、小判には銀が 3.89g含まれており、これは金量に換算すると15(国際的な金銀比価)で割って3.89/15=0.26g が金に換算した価値となり、小判の金量は5.1g+0.26g=5.36gとなり5.36g/1.5g=3.57 すなわち
安政小判1枚は3ドル57セントになる計算です。

この結果は小判1枚が4ドルという従来からの為替レートと比較すると、43セント(約10%)の日本不利(米国有利)です。すなわち、日本から見ると、1両で4ドル交換できたのが、3ドル57セントに減ることになります。米国から見ると、1両を得るのに、金貨4枚必要であったのですが、金貨4枚で43セントのお釣りがくるのです。小栗忠順の要求は、為替レートを日本不利にすることになりかねないと思いますが、どうでしょうか。


小栗忠順要求のフィラデルフィア造幣局での分析が小判の流出問題を浮き彫りにしたかのような著述などが多いので
すが、日本の損を少し増やす程度の結果であり、何を浮き彫りにした分析なのでしょうか。小栗忠順とフィラデルフィア造幣局との小判とドル金貨の金銀量分析は、小判の流出への対策としては何も得られないと思います。

小判に含まれる銀の価値を組み入れ、10%の小判価値を増加させたのがフィラデルフィア造幣局での結果でしょうか。1ドルが3ドルに化ける為替レートの問題の解決には直接的には関係がないようです。


小判流出問題の解決は、小判の金量を分析することよりもメキシコドル銀貨と一分銀の交換比率を問題にするのが本筋だと思われます。ようするに日本国内の貨幣制度自体が国際的慣例から飛び出して(進みすぎていた?)いたという国内問題なのですから。

結局、幕府は通貨問題解決のため、小判の金量を1.25ドル(安政小判の約1/3)相当の万延小判(小さくて可愛い雛小判)の発行に切り替えました。従ってフィラデルフィア造幣局での分析結果は実際の貿易には適用されることなく過去の記録として残ることになりました。

小栗忠順がこだわったフィラデルフィア造幣局での分析は何を目的としたのでしょうか。小判の価値を4ドルに近づけようとしたことなのでしょうか、良くわかりません。ご教授いただきたいのです。

幕末物語幕末も黄金の国ジパング,対ドル為替レートの決定,ハリスが迫る為替レート改定と吹替入費交渉にも関連を紹介

戻る


参考資料:江戸人物科学史(金子務、中公新書)、その他上記リンク先に明記。
2008.9.27