Topic12 高津村(現千葉県八千代市)の鈴木半兵衛さんの算額
どういう縁か、また算額の遺題を解くことになりました。和算が消滅したように算額も消滅しました。
西洋数学に駆逐された和算、その根底を探りたいために頭をひねります。
左の図は現八千代市萱田飯綱権現に保存されている算額です。
幕末時代(文化七丑年十二月吉日)の高津村の鈴木半兵衛さんが後世に遺した宿題です。
この図には説明文がありまして、以下のように説明(挑戦?)しております。
今有如図、只云、鉤若干、青方若干、問甲円径。
答曰、依左術得甲円径。
術曰、置鉤乗青方、開平方、乗鉤、開平方、名子、以減鉤、余自之、加子、開平方、
以減鉤、余得甲円径、合間。
股:直角三角形の直角をはさむ長い辺
鉤:直角三角形の直角をはさむ短い辺
弦:直角三角形の斜辺
この題意をてっとり早くいいますと、鉤(長さα)と青方 (長さS)から甲円の直径(2r)を求めよ、と言うことになります。
鈴木半兵衛さんの説明を現代風に読み下すと、
今有如図(今、図のようになっている、出題冒頭の決まり文句)、只云、鉤(直角を挟む短い辺)若干、青方(正方形の辺)若干、問甲円径(甲の直径を問う)。答曰(答えは)、依左術得甲円径(左の解法に依り甲の直径を得る)。
術曰(解法を述べると)、置鉤乗青方(鉤と青の辺を
乗ずる)、開平方(平方根を求める)、乗鉤(鉤を乗ずる)、開平方(平方根を求める)、名子(これらを子と称する)、以減鉤(鉤より子を引く)、余(前式の差)自之(自乗)、加子(子を加える)、開平方(平方根を求める)、以減鉤、(以上の結果を鉤から引く)、余得甲円径(
差により甲円の直径を得る)、合問(問いの答えとする、決まり文句)。
説明文の解釈が間違っているかもしれませんが、まづ、説明文に従って計算式を作ってみます。
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上記の3つの式を整理すると、
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式(4)が正解なのか、鈴木半兵衛さんの解説に対する私の解釈が正しかったのかを検証するため、別なやり方で上記の問題を解いてみます。
Fig.1の別な解法(甲円は直角三角形ABCの内接円であることで解く)
三角形の公式で、三角形ABCの3辺の長さを
a,b,cとし、内接円の半径を r とする。
また、三角形の面積をSとすると、 S=r(a+b+c)/2 ---公式(1)
ここで、公式(1)を、r =2S(a+b+c)に変形して考え安くする。
Fig.2において、直角三角形の面積は S=bc/2ですから、
2r=2bc/(a+b+c)---(5)
これが求める甲円の直径となる。三角形の各辺の長さ(a,b,c)をS及びαで表せば、問題を解いたことになります。
Fig.2にある三角形はすべて相似形です。したがって、どの三角形でも辺の長さの比率は同じになります。
正方形青、白、黒、大方が弦に接しながらどのような比率で大きくなっているかを計算すれば、三角形ABCの辺bの長さが得られます。
ここで、青正方形の辺Sのm倍(m>1)を白正方形の辺とすると、白正方形の1辺の長さは、mSとなり、
Fig.2の黄色い三角形に注目し、弦の傾き(tanβ)を求めると、tanβ=m-1 ---(6) になります。
tanβ=(黒の辺-白の辺)/白の辺=m−1の関係があり、この関係より黒の辺を求めると、mmSとなります。
同様な考え方で、正方形大方及び辺αの正方形の辺をもとめると、
・正方形青の辺の長さは S
・正方形白の辺の長さは mS
・正方形黒の辺の長さは mmS
・正方形大方の辺の長さ(b)は mmmS
・αの長さはmmmmS となります。また、tanβ=c/b より、cを求め、ピタゴラスの定理より、aを求める。以上をまとめると、

以上の式(7)から(10)を、式(5)に入れて計算すると以下の式(11)が得られる。
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別な解法(甲円は直角三角形ABCの内接円であることで解く)の解と式(4)の違いについて
正確な作図で得られた甲円の直径と、式(11)の解(直径)は同じでしたので、式(11)は正しいことになり、式(4)では正しい解が得られませんでした。
鈴木半兵衛さんの「
術曰」以下の説明に対する私の解釈が誤っているか、解説文そのものが誤っていると思われます。
式(2)、式(3)の赤丸で示した「子」が二乗であれば、式(11)と同じとなります。
すなわち、以下の文の解釈の問題になります。
以減鉤(鉤より子を引く)、余(前式の差)自之(自乗)、加子(子を加える)、
ここで、余自之という表現は、子を自乗することを言っているのか、いないのかが、注目点です。子を自乗するのが正しいでしょう。
八千代市郷土歴史研究より「子を自乗する」ことについて新史料の提供がありました。2004.07.30
和算「最上流」の祖と言われる會田安明著の算法天生法に上記の鈴木半兵衛の解法があり、次のようになっているのです。
會田安明著の算法天生法の術:以減勾余自之加子巾開平方以減勾余得
八千代市 萱田飯綱権現の術:以減鉤余自之加子開平方以減鉤余得(勾と鉤は同義です)
巾(べき)は自乗してなる数を表します。すなわち、加子巾は「子の自乗」を加えるとなり、式(2)、式(3)の赤丸で示した「子」が二乗になっているのです。すなわち、現八千代市萱田飯綱権現に保存されている鈴木半兵衛さんの算額の術は、「巾」を落としていると思います。
和算家鈴木半兵衛さんは、この問題を解くために、式(1)から式(3)を提示しております。
この3つの式はどのような考え方から出たのでしょうか。
解明には時間がかかりそうですのでページを改めて考えます。
岩手の算額について解いた例もあります。興味のある方はクリックして下さい。→岩手 花巻の算額
参考資料:千葉県八千代市郷土歴史研究会員の提供資料、八千代の歴史