No.41 黒船来航とてんやわんやの大騒動

   嘉永6年6月3日(1853.7.8 fri) 東岡村の漁師林蔵が城ケ島の沖合で黒船を発見、彦根藩警備隊員の山下藤兵衛に注進、そして久里浜で大砲調練の浦賀奉行戸田伊豆守氏栄に報告、ついで幕府へ報告を飛ばしたのが「黒船第一報」のようです。


黒船が浦賀に出現!!、「ご注進」「ご注進」の大変な騒ぎになったのです。


   南町奉行与力佐久間長敬の嘉永日記によると、この日、江戸城は将軍家定が病気ということで退出している役人が多い状態だったようです。「非番の与力同心残らず出勤す」とありますから、さぁ大変ということで関係者へ緊急招集がかけられたのでしょう。
当番与力より、黒船情報を聞きましたが、憶測がまじっております。すなわち、「アメリカの軍艦浦賀の沖合いに乗り込みしが、これは未だ見たこともなき
蒸気仕掛の軍艦にて、其進退極めて自由、大小4隻先着し、跡船の来を待ち合わせて直に江戸海に乗り入れるもの数艘来たれり」。
「蒸気仕掛の軍艦」と見破っておりますので、蒸気船とはどのようなものなのか知識があったようです。

今回のペリー艦隊は後にも先にも4隻だけですが、当番与力の情報では続々と黒船が押し寄せてくるような雰囲気です。これは大変なことです。
平凡社、「かわら版新聞、江戸・明治三百事件」に掲載された写真を加工しました。
阿部伊勢守正弘ら江戸城の大幹部も登城し、真夜中に協議が行われました。

また、南町奉行与力佐久間長敬の嘉永日記には、「今にも戦争の始まるは必定にて、ツマリ江戸海へ乗り入れる異国船をその侭逃す筈なければ、之を打ち払うに御固の人数不足ゆえ加勢を要し、御固の四家にては加勢の人数繰り出すために大騒ぎをなしえると也」

危機感に満ちた状況であることが分かります。どうも不確定な情報は、その内容が悪い方へ悪い方へと傾いていくようです。

また、「続々泰平年表」によると、「かくて浦賀その外、諸処の陣屋より昼夜を分たず、注進の汗馬、並びに海陸の飛脚往来、櫛の歯を挽くよりも忙しく、江戸の大都繁華の巷も、にわかに修羅のあまたに変じ、万の武器調度を持ち運び、市中古着あきなふ店には、陣羽織、小袴、裁付(たっつけ)等をかけならべ、下駄、傘をひさぐ家には、一時に蓑笠を商い、又鍛冶を業とするものは、家毎に甲胄を鍛(きた)ひ、武器あきなふ店には、古き物具をかさね、其の価平日に百倍せり。且つ海辺に屋敷あるものは、老幼婦女その処を立ち退き、家財雑具を持ち運び、さしも広き大江戸も、錘(きり)を立つべき処もなく、奔走狼狽して、往来実に混雑したり」。
「其の価平日に百倍せり」百倍は大袈裟だと思いますが、急な需要があったことは分かります。古いものもあったようですが、まずは機能より体裁でしょうか。

江戸の町はてんやわんやの状態であったことが良く分かりますが、したたかな人たちもいたようです。

   「江戸市内で景気づいたるは、馬具師、具足師、刀とぎ、人夫宿、左官は土蔵の目塗りに忙しく、駕篭かきは雇いあげで思いもうけぬ銭もうけ。
立ち退き先にあたる農家の部屋代日増しにせりあげ、食糧の価格はあがる一方、質屋には入質あって出質なく、見世先を火事具、陣羽織をもって飾る。閑となったは芝居、料理茶屋、遊廓」。
黒船来航の経済効果がここに見られます。武器を商う人たちには、思ってもみなかった在庫整理ができたようです。

.....三味線をひかずに江戸はからさわぎ よく来たなアメリカ様とソッと言い
.....武具馬具師アメリカさまとそつといい

そして、「とやかくするうちに、一日一日と打過ぎて、はや少しは事慣れ、中には異船見物として、神奈川辺まで遊山がてらに行くもありて、実に御膝元の御武徳と人々挙げて賞しける内、異船一とまづ退帆の御触れにて一同安心の枕に付きにけり。ただ此の度の仕合せは武器あきのふ物にこそあれ。」

江戸の町の様子を知る史料として、越前藩医坪井信良の書簡があります。
・・・勿論武具商売、米屋などの外は皆々商売を休み、武家の一々門の出入り六ケ敷、一人も緊要の外は出門成らざる位の事故、十二日十三日の頃は小子も廻勤しながら日本橋辺を通行するに、荷を負う者一人もこれ無く、魚舟一艘もなく、武士一人も逢わず、両側共皆々商売休み居。

江戸の町は奔走狼狽して、往来実に混雑したり、という状況から、一転、静かになったようです。そして異船見物として神奈川辺まで遊山に行く余裕が出たようです。米国大統領の書簡を受け取ったことにより、まずは当面の危機が去った安心感が広く行き渡ったと思います。


ところで、黒船は何のために日本へ来たのでしょうか?
日本が進んで呼んだのではないのは明らかですから、アメリカの必要性からが直接の目的だと思いますが、その背景には国際化という流れがあったと思います。また、黒船は当時の日本にとっては
「最先端技術」ですから、非常に興味を持たれたに違いありません。
日本の技術者は黒船を前に何をしたのでしょうか。技術者のはしくれとしては気になります。


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