No.39 明日は我が身のアヘン戦争

明日は我が身のアヘン戦争と自尊心がケッコウ強い幕府役人のお話です。

黒船のペリー提督が日本を去ってから数年後。
アヘン戦争(1840年、天保11年)で隣国清が西洋の国々によりどう扱われたかが非常に気になる日本は、その情報収集に力を入れていました。

ところが、幕府は自ら外へ出て情報収集をしていないのです。海外隠密(遠国奉行海外掛?)という話はないようです。
現場に出かけて行かないと正確な、生きた情報を得ることができないでしょうし、政策決定者は当事者の話を直に聞くようにしないと問題を起こすことなります。
これがなかなか出来ないのが常で、報告書類で分かった気になると組織の存続が危うくなるような誤解を生むようです。
  

阿片戦争は隣国清に理不尽な戦争でしたし、日本に強い危機感をもたらしました。鎖国以来、幕府がやっと中国へ官船を送ったのが文久2年(1862年)4月29日、千歳丸が上海貿易視察のため長崎を出港しました。目的は上海経済活動の実地調査のようですが、アヘン戦争後の状況を調査することは当然含まれていたはずです。

ながい間の「海外渡航禁止」という政策は情報を得るため海外へは行けないという、情報収集、情報戦争という面から見ると、まことに不利なものです。


アヘン戦争とそれに続く、既得権を強化しようと企てられた1856年10月(安政3年)のアロー号事件は、日本にとって最も知りたい事件でしょう。
日本と西欧の軍事力差は、黒船来航以来歴然ですから、それへの対応策は一応考えることが出来ます。しかし、政策担当部署としては、西欧側が軍事力を背景に、清に何を要求し、清がどうせざるを得なくなったかを知りたくなるのは当然です。明日は我が身なのですから。

安政4年(1857)2月5日、長崎奉行荒尾成允は、幕府へ報告するため、徒目付永持亨次郎に命じオランダ弁務官クルチウスよりアロー号事件を詳細に聴取させています。

オランダ弁務官クルチウスは次のように報告及び忠告しています。
アロー号事件は清の役人の無理解が原因で、英国の理不尽なやり方ではない。多分今回もアヘン戦争と同様、清より和睦を提案し英国の意の通りになるであろう。そして広東が占領されたとの噂もあると報告しています。
どんな条約であろうが条約である限りは守らなければという冷徹な契約社会を感じます。

そして、クルチウスは日本は各国との条約締結も進んでおり、「此上に於ては旧来の御国法御変革に相成 、世界普通の御法に被成候義肝要に有之」と忠告しています。すなわち日本も国際ルールに則って行動すべきであるとの進言しています。
そして、オランダ弁務官クルチウスはさらに日本人の態度について親身な忠告をしております。

・東洋の人民は自ら尊び他を卑しめ候癖有之と西洋人評判仕候
・外国々にては至極不快之義に御座候
・外国人に対候ての御文言は御改相成候様有之度候

どうも日本人をはじめ東洋人は西洋人に対して尊大であったようで、西洋人に対しての文面は改めるほうが良いでしょうとクルチウスは忠告しています。西洋蔑視の風があったようですが、これはいつの頃からなのでしょうか。



また、安政4年(1857)10月26日ハリスが老中堀田備中守正篤の自邸で幕府役人を前にアロー号事件を取上げ、脅しに使った気配です。

米国大使ハリスは次のように述べています。
「日本安危に拘り候、重大之事件数ケ条申上候。其内大事二ケ条有之、先近年西洋各国交易盛んに相成都府へアゲント指置候所、支那と日本計り独立之国にて未だ同盟に無之、支那にてアヘン之乱有之候も北京にアゲント指置不申、広東の奉行英人を軽じめ候より事起こり候間日本にても其覆轍をふまざる様速に江戸へ商館を建、各国のアゲンドと置べし」。

ハリスはアヘン戦争のようにならないためにも、商館を建て、アゲントを置くべきであると忠告しています。
アゲンドとは Agentだと予想しますが、これは外交官というより商売っ気を連想します。

この時、ハリスの話を聞いた日本人の様子についての
ヒュースケンの記録があります。

大使の一言からざわめきが起こったが、どうやらそれは日本人の自尊心をくすぐったらしく、彼らは低い声でうなずきあっていた。
大使の一言というのは、もし日本の高い山に登って見回すならば、たくさんの船がアメリカの旗を翻し、何千マイルの海を越えて、はるばると日本の岸まで鯨をとりに来ている。なぜ、と大使は付け加えた。勇気もあり、活動力にも欠けていない日本人が、遠くアメリカの岸まで船を送り、自国の旗を進めようとしないのか、というのである。


アヘン戦争とそれに続くアロー号事件は日本へ大きな影響を与え、精神的な気構えを確かなものにしたようです。

でもなぜか、オランダ弁務官クルチウスとそして米国大使ハリスは、日本人の自尊心に関してコメントをしております。それほど目立つ、幕府役人の自尊心であったのでしょうか。


目次に戻る

hanmap.gif (2136 バイト)