No.28 幕府の江戸城開城を分析してみる
AHP: Analytic Hierarchy Process

徳川幕府の壊滅を象徴する江戸城の開城にはどのような要素がどのくらいの重要度で関与したのでしょうか。
このテーマを階層化意思決定法AHP: Analytic Hierarchy Process)を用いて探ってみます。
独断と偏見があるでしょうが、自由にやらせてもらいます。

慶応4年4月11日(1868.5.3 Sun)に長い間、徳川家が君臨していた江戸城の主が代わるという象徴的な出来事がありました。
江戸城の外では一部、不穏な動きがあったようですが、城の明け渡しは清々粛々、あっけなく事務的に行われたようです。


ahp1.gif (4892 バイト)江戸城を開城に導いた歴史的な要素はいくつも考えられますが、その要素を拾い出し、どれがどの程度重要であったのかを定量的に考えてみることにします。

江戸城開城という最終目標に対してどのようなインフラ的要素が影響しているのか、そして、どんな視点でとらえるのかを左図のように階層構造にしてみました。この構造化は主観的なもので、これとはまったく違う要素で構造化することもできるでしょう。

ここでは、江戸城開城を仏英の影響力、軍事力、経済力、政治力、市民生活の5つの評価基準を設けることにします。そして、視点として、当時の考えられる勢力(都市商人、西南諸藩、外国勢力、幕臣、徳川幕閣、東北諸藩)がどの程度重要な役割を担ったのかを分析してみます。


5つの評価基準(仏英の影響力、軍事力、経済力、政治力、市民生活)により江戸城開城を見ることにします。

鳥羽伏見の戦で勝利し、「錦旗」を戴くことに成功した官軍はその鉾先を江戸城の徳川家に向けることになります。鳥羽伏見の戦から江戸城の無血開城まではわずか4ヶ月です。
一般には権力の象徴である城郭の攻防戦が起こるのでしょうが、江戸城の場合これはありませんでした。すでに当事者間では心情的に決着がついているのでしょうし、徳川家の最高責任者徳川慶喜が恭順の姿勢であることが大きな要因となっております。

しかし、攻防戦の可能性がなかったわけではありません。開城に至る迄には双方の実力や時代の背景を条件に種々な駆け引きがありました。
英国公使パークスに代表される外国勢力の牽制、幕府軍と東海道先鋒総督などの官軍との力関係、双方の軍資金の調達状況、徳川家処分に関しての勝海舟と西郷隆盛らの政治的駆け引き、そして江戸市民の世論など、これらが江戸城開城に関してどの程度重要性があったのかを数値で評価してみます。


江戸城開城についての評価基準の行列 (Table 1)

仏英の影響力 軍事力 経済力 政治力 市民生活 幾何平均 重み
仏英の影響力 1 1/5 1/3 1 5 0.803 0.105
軍事力 5 1 5 5 9 4.076 0.535
経済力 3 1/5 1 5 7 1.838 0.241
政治力 1 1/5 1/5 1 3 0.654 0.086
市民生活 1/5 1/9 1/7 1/3 1 0.254 0.033

上の行列は5つの評価基準(仏英の影響力、軍事力、経済力、政治力、市民生活)をペアでどちらが重要かを比較し数値化したものです。
*重要度の評価点は 1:同じくらい重要   3:やや重要  5:かなり重要 7:非常に重要  9:きわめて重要 とし、逆の重要でない場合は逆数表示となります。
    例、江戸城開城について「仏英の影響力」と「軍事力」を比べると「軍事力」がかなり重要 [5]である。これを行列で表すと、上の行列の水色の欄となります。


重要性は、まったく主観や勘で評価しています。数学的意味は省略しますが重みで重要度の判定を行います。なお、重みは幾何平均を用いて求めています。なお、上の例の Consistency Indexは 0.089で合格評価である。


すなわち、江戸城開城の重要な要素は 53.5%で軍事力である。


6つの視点(都市商人、西南諸藩、外国勢力、幕臣、徳川幕閣、東北諸藩)により江戸城開城を見ることにします。

江戸城の開城を評価するとき、5つの見方を考えましたが、その評価基準をより具体的にすることにします。具体化するものは何かという視点で、6つを取り出しました。これらは当時影響力があったと思われる勢力です。
三井、鴻池に代表される都市商人の金力、薩長を中心とした西南諸藩、江戸城管理の当事者である、幕臣と徳川幕閣、西南諸藩と真っ向対抗する会津、庄内藩(いわゆる東北諸藩)、そして大きな軍事力と技術で圧倒した外国勢力、これらが6つの視点にどのような重要性でからんでいたのかを考えます。


どの勢力(視点:都市商人、西南諸藩、外国勢力、幕臣、徳川幕閣、東北諸藩)が重要な役割を担ったのかを分析してみます。
5つの評価基準ごとに視点のペア比較を行います。下の例は評価基準を仏英の影響力とした場合です。

仏英の影響力の行列(Table 2)

都市商人 西南諸藩 外国勢力 幕臣 徳川幕閣 東北諸藩
都市商人 1 1/7 1/3 1 1/3 3
西南諸藩 7 1 1 7 1 9
外国勢力 3 1 1 5 1 9
幕臣 1 1/7 5 1 1/3 3
徳川幕閣 3 1 1 3 1 7
東北諸藩 1/3 1/9 1/9 1/3 1/7 1

このように5つの評価基準すべてについて、視点(6個)のペア比較を行います。


上記の結果から、各評価基準に関する各視点の評価を行列にまとめてみると以下になります。

各評価基準に関する各視点の評価の行列(Table 3)

仏英の影響力 軍事力 経済力 政治力 市民生活
都市商人 0.083 0.044 0.253 0.039 0.122
西南諸藩 0.316 0.298 0.268 0.350 0.212
外国勢力 0.259 0.379 0.279 0.162 0.059
幕臣 0.076 0.095 0.045 0.115 0.071
徳川幕閣 0.228 0.101 0.103 0.292 0.435
東北諸藩 0.038 0.084 0.052 0.042 0.102

なお、横に並んでいる評価基準は Table1の重みを持っておりますので、上の行列にこの重みを掛けて総合的に評価する。

総合評価(Table 4)......幕末の象徴的事件江戸城開城について、外国勢力が重要な意味を持っている。(31.3%)

都市商人 0.101
西南諸藩 0.294
外国勢力 0.313
幕臣 0.082
徳川幕閣 0.142
東北諸藩 0.068

江戸城の無血開城を考えるとき、軍事力が重要な位置を占めますが、西南諸藩に加えて外国勢力の重要性も無視することができません。特に英国公使パークスの新政府側に対する影響力は注目するべき事柄であり、さらに資料を集め、その影響力を検証しても良いと思われます。また、フランスと幕府との密接な関係も掘り下げ、日本を舞台にした英仏の駆け引きも重要なテーマとなるでしょう。
大きな目で見れば、黒船以来の国際化の波が日本にも大きな影響を及ぼしているということになるのでしょう。ホームページ「幕末千夜一夜」もこの観点で進めることになりそうです。


階層化意思決定法AHP: Analytic Hierarchy Process)を用いて江戸城開城を分析してみました。AHPについて十分な知識がないため考え方に無理があるかもしれません。ご指導をお願いしたいと思います。

AHPを用いて、江戸城開城という歴史事象に関係する因果的要素を図式化し、そしてその因果の強さ(重要度)を数値化してみました。これは歴史事象相互間の因果を定量するという試みです。

これは別な角度から考えると、江戸城を開城するという事象に接続される因果を「入力信号」とみなし、その因果は「出力信号」として、どの歴史事象から出力されて来たのか、と連鎖的につながっていきます。この連鎖を電子回路網や自動制御工学の考え方で整理・体系付けることも出来るのではないかと思っています。このように工学的な方法を持ち込むとき、因果の量があると種々な試みが出来ると思われます。

このように種々な工学的手法を歴史の整理や分析に使ってみるのは知的遊びとして非常に面白いと思います。

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