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No.70 和算・算木で二次方程式を解いてみる
2006.11.12
和算と言えば算額を思い出し、そして算額は図形の問題がほとんどです。
西洋では、数学は物理学や天文学などの科学と共に発展してきたようですが、
日本の和算は自然科学と密接に関係せず、和算のための和算として高度に発展したような印象です。
我が日本の天文や造船などの科学にかかわる人たちはどのような数学を使っていたのか、いずれ調べてみます。
このサイトで二つの算額の問題を解いていますので、興味のある方はご覧下さい。【岩手の算額】、【千葉の算額】
たまたま算木で二次方程式を解く例を図説科学大系(平凡社1965)で見つけましたので、これを題材に幾何学ではない和算を考えてみます。
どのような思考過程なのかを探ります。
見つけたのは「和算家佐藤茂春の天元指南」で、算木を用いた二次方程式の解法です。これには小さな写真(天元指南、最初と最後のページの写真)と図説科学大系の担当執筆者による簡単な解説があります。なお、ウェブサイト「和算の館」(R)の電子復刻算法天元指南も参考にしました。
現在、二次方程式を解くと言えば「根の公式」を使いますが、この例では根の公式を使っておりません。
根の公式は、西暦628年、インドのブラマグプタという人が発見したと、あるサイトにありました。この年代が本当なら、我が日本では聖徳太子の時代です。当然日本にも根の公式が伝わってきたと予想しますが、この公式を使っていないのです、さてどんな方法でしょうか。
以下の例は、「和算家佐藤茂春の天元指南」による算木を用いた X2 +24X-139732=0 の X=362を求める解法です。
この解釈で良いのか、アドバイスをいただければありがたいのですが。
開方和解図式(天元指南)
算木の図及び解法(太文字)はウェブサイト「和算の館(R)」の電子復刻算法天元指南を参照しました。
如図(Fig.1a)開方の式を置て平方に開之とき、
Fig.1aがX2 +24X-139732=0 を算木で置く方法です。
廉の行が x2の係数(1)、方の行が xの係数(24)、そして実の行が定数(-139732)です。商の行に方程式の解(根)が入ります。赤は正の数、黒は負の数です。
なお、一の位は縦棒が一を十の位は横棒が一を表し順次縦と横を繰り返すようです。
またFig.1aの実の百の位の横棒は5を示します。
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根の公式を使わない、開方和解図式の基本的な考え方
算木による2次方程式の解き方を見ると、
X2 +24X = 139732 ---------- (0)
のように未知数Xを含む項を等号の左にまとめ、定数を等号の右に置くとわかりやすいと思います。
解き方を簡単に言うと、
まず商Xの百の位の数を求め、これを左項のXに代入して計算し右項の実(定数)から引きます。次に商Xの十の位の数を求め、同じようにXに代入して計算し右項の余った実(定数)から引きます。最後に商Xの一の位の数を求め、同じようにXに代入して計算し右項の余った実(定数)から引き、実(定数)がゼロになれば2次方程式を解いたことになる。という方法です。
解き方を現代風に見るため、上記の和解図式の考え方の流れを代数式で表し、算木の解法手順を追跡します。
式(0)で解Xを100p+10q+rとします(p,q,rは1桁の数)。
(100p+10q+r)2+24(100p+10q+r)=139732 ----------(0a)
左辺を展開しておくと、 10000p2+100q2+r2+2400p+240q+24r+2000pq+200pr+20qr=139732 ----------(0b)
さて、開方和解図式(天元指南)の解法を探ってみます。
先(まず)如図(Fig.a)一十百千と位を見上るに、方は一階づつ進み 廉(れん)は二階づつ進むべし
算木が桁を移動する場合(左右にシフトする場合)、方は1桁ずつシフトし、廉は2桁ずつシフトする、と言っています。
廉の行(X2の係数)は二階ずつ進むべしとあるので、解の位取りを変えることを言っています。
この問題の場合、解は362ですから、300を1/100の3で扱うため、係数廉は10000倍、係数方は100倍しておくことになります。
これは解を一桁の数字で扱うことを意味し、まずpを処理することになります。
千の位はなし百の位なる故 方廉各々二位進で商に三百と立るなり 則次の図(Fig2)のごとし
Fig.aの算木の配置を式にすると、10000p2 +2400p = 139732----------(1)
方程式((1)式)の解(p)が1,000以上ですと、実(139732)を遙かに越えてしまいますので解とはなりえません。また100ですと、実に届きません。したがって解は999から100の間、言い換えると解の最上位桁は千の位の数字(4桁の解)ではなく百の位の数字(3桁の解)です。「千の位はなし百の位なる故」とは、このことを言っているのでしょうか。
さらに、解が400では実を越してしまい、300では実に届きません。解は399と300の間にあることになります。したがって、まず「百」の位に「三」を置く方法のようです。この辺は概略計算をやっているようです。
まず解p=3 のみに関する項を計算して実から引くことになります。すなわち式(0b)の、10000p2+2400p を計算して実から引いてしまうのです。
扨(さて)廉の一万と商の三百と掛合一三の三万(注1)を方に加へ 廉も正算方も正算にて同名なる故加ふるなり
方三万二千四百となるなり(B1) 又此方の三万と商の三百と掛合三三の九万 実を減じ(C1)
又方の二千と商の三百と掛合二三の六千 実を減じ(D1)
又方の四百と商の三百と掛合三四の千二百 実を減じ(E1)
方は正算実は負算にて異名なる故減ずるなり
実に四万二千五百三拾二余るなり 則次の図(Fig3)にしるす
和解(太文字)の説明に従って見ていくと、結果は下記の表になります。
| 方(代数式表現) | 方(具体値) | 実(代数表現) | 実(具体値) |
|
2400+10000*p
|
B1: 32400
|
42532
|
|
|
C1: 30000
|
139732-10000*p*p |
49732
|
|
|
D1: 2000
|
139732-10000*p*p-2000*p |
43732
|
|
|
E1: 400
|
139732-10000*p*p-2000*p-400*p |
42532
|
|
| 139732-(10000*p+2400)pを上記のように分割して計算 |
42532
|
(注1)1万と3百を掛けると3百万になりますが、和解では3万となっていますので、3百を3(=p)として扱います。これは解を1/100で扱っているためです。
上記の操作により式(0b)の、10000p2+2400p が具体的な数値となり、実から引かれます。すなわち式(0b)から解pのみに関係する項が消えることになります。
ところで、式(0b)で、pを含む、2000pq及び200prをどのように扱うのでしょうか。
次のステップで 2000pqを処理しているのですが、なかなか理解できません。
又廉の一万と商の三百と掛合一三の三万を方に加へ
廉も正算方も正算にて同名なる故加るなり
方六万二千四百となるなり(B2)
扨方廉各々一位づつ退(しりぞい)て 方は一階づつ退き廉は二階づつ退くなり 商に六拾と立るなり 則次の図(Fig4)の如し
このステップの和解(太文字)の説明に従って見ていくと、結果は下記の表になります。
方に10000*pを加えているのが、2000pqを処理するための方法です。
| 方(代数式表現) | 方(具体値) | 実(代数表現) | 実(具体値) |
|
2400+10000*p+10000*p
|
B2: 62400
|
42532
|
そして、右へシフトします。解を1/100から1/10にしています。廉の値も10,000から1/100の100へ、方の値も62,400から1/10の6,240になります。
この右シフトは解qの処理に入るためです。
| 方(代数式表現) | 方(具体値) | 実(代数表現) | 実(具体値) |
|
240+1000*p+1000*p
|
6240
|
42532
|
次に解qのみの項に関する処理に入ります。
Fig.4の算木配置を式にすると、100q2+6240q=42532、q=7では実(42532)を越してしまい、X=6では実に届きません。したがって解は69から60の間にあるため十の位に「六」が立つことになります。ここでも概略の計算があるようです。
扨廉の百と商の六拾と掛合一六の六百を方に加へ
廉も正算方も正算にて同名なる故加るなり
方六千八百四拾となるなり(B3)
又此方の六千と商の六拾と掛合六六の三万六千 実を減じ(C3)
又方の八百と商の六拾と掛合六八の四千八百 実を減じ(D3)
又方の四拾と商の六拾と掛合四六の二百四拾 実を減じ(E3)
方は正算実は負算にて異名なる故減ずるなり
実に千四百九拾二余るなり 則次の図(Fig5)にしるす
和解(太文字)の説明に従って見ていくと、結果は下記の表になります。
| 方(代数式表現) | 方(具体値) | 実(代数表現) | 実(具体値) |
|
240+2000*p+100*q
|
B3: 6840
|
42532
|
|
|
C3: 6000
|
42532-6000*q |
6532
|
|
|
D3: 800
|
42532-6000*q-800*q |
1732
|
|
|
E3: 40
|
42532-6000*q-800*q-40*q |
1492
|
|
| 42532-(240+2000p+100q)q を上記のように分割して計算 |
1492
|
(注)100と60を掛けると6,000になりますが、和解では600となっているので60を6として扱います。これは解を1/10で扱っているためです。
上記の操作により式(0b)の、100q2+240q+2000pq が具体的な数値となり、実から引かれます。すなわち式(0b)から解qのみに関係する項が消えることになります。
又廉の百と商の六拾と掛合一六の六百を方に加へ
廉も正算方も正算にて同名なる故加るなり
方七千四百四拾となるなり(B4)
扨方廉各々一位づつ退て 方は一階づつ退き廉は二階づつ退くなり
商に二と立るなり
則次の図(Fig6)にしるす
(注)100と60を掛けると6,000になりますが、和解では600となっているので60を6として扱います。これは解を1/10にしているためです。
このステップの和解(太文字)の説明に従って見ていくと、結果は下記の表になります。
方に100*qを加えているのが、200pr を処理するための方法です。
| 方(代数式表現) | 方(具体値) | 実(代数表現) | 実(具体値) |
|
240+2000*p+100*q+100*q
|
B4: 7440
|
1492
|
そして、右へシフトします。解を1/10から1/1にしています。廉の値も100から1/100の1へ、方の値も7440から1/10の744になります。
この右シフトは解qの処理に入るためです。
| 方(代数式表現) | 方(具体値) | 実(代数表現) | 実(具体値) |
|
24+200*p+20*q
|
744
|
1492
|
次に解rのみの項に関する処理に入ります。
Fig.6の算木配置を式にすると、r2+744r=1492、r=2で左の式が成立しますので、一の位に「二」が立ちます。
扨(さて)廉の一と商の二と掛合一二の二を方に加え
廉も正算方も正算にて同名なる故加るなり
方七百四拾六となるなり(B6)
又此方の七百と商の二と掛合二七の千四百 実を減じ(C6)
又方の四拾と商の二と掛合二四の八拾 実を減じ(D6)
又方の六と商の二と掛合二六の拾二 実を減じ払(はらう)なり(E6) 方は正算実は負算にて異名なる故減ずるなり 則次の図(Fig7)にしるす
如此実尽て商に三百六拾二を得るなり
和解(太文字)の説明に従って見ていくと、結果は下記の表になります。
| 方(代数式表現) | 方(具体値) | 実(代数表現) | 実(具体値) |
|
24+200*p+20*q+r
|
B6: 746
|
1492
|
|
|
C6: 700
|
1492-700*r |
92
|
|
|
D6: 40
|
1492-700*r-40*r |
12
|
|
|
E6: 6
|
1492-700*r-40*r-6*r |
0
|
|
| 1492-(24+200p+20q+r)rを上記のように分割して計算 |
0
|
実の代数表現を集約すると、
139732-10000p2+2400p-240q+2000pq+100q2-24r+200pr+20qr+r2=0 で式(0b)となります。
算木による二次方程式の解き方は、以上のように解を一桁の数値(p、q、r)として扱い、既知になった項を実から引いていく方法になっているようです。
この手順の中で、2000pq、200prを求める場合の考え方・手順が、まだ理解できません。いずれ考えてみたいと思っております。
また、この二次方程式の根は2つありますが、一つしか求めていません。二つ目も求めるには別な方法があると思われます。
ご存じの方はご教授ください。→幕末千夜一夜
和算の本「文化史上より見たる日本の数学(link)」(リンク先に簡単な書評を載せております)を見つけました。これから和算を調べたい人にとっては良い本だと思います。
なお、図説科学大系掲載の天元指南と「和算の館」電子復刻算法天元指南には以下の違いがあります。(最初と最後のページのみ比較)
黒文字が図説科学大系で、赤文字が電子復刻算法天元指南です。
如図開方の式を置て平方に開之とき、先(まず)如図一十百千と位を見上(のぼ)るに、方(ほう)は一罫(一階)づつ進み 廉(れん)は二罫(二階)づつ進むべし、千の位はなし百の位なる故 方廉各二次進て(各々二位進で)商に三百と立るなり
江戸時代、二次方程式はどのように活用されたのでしょうか。
二次方程式になっていれば解を求めることはできますが、どのような分野・仕事に二次方程式が使えるのか、
二次方程式をどのように作るのか、すぐには思いつきません。
学生時代は二次方程式が与えられて、その解を求めることばかりやっていたような気がします。
どのような問題を解くのに二次方程式が有効かというアプローチが無かったような気がします。あったけれども忘れたかも。
変数が二乗で関係づけられるもの、江戸時代には何があったのでしょうか。
算木とはどんなものなのか見てみたいものです。手にとると和算をもっと身近に感じるかもしれません。
参考資料:佐藤茂春「天元指南」改正版(1698)(数・空間・時間 図説科学大系10平凡社)
ウェブサイト「和算の館」電子復刻算法天元指南